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不可解ルーム05
比企/ハイガクラ






女の子が泣いていた。

教室の隅で友人に囲まれたその娘は、声を殺すように手で顔を覆いうつむいてぐずぐずと泣いている。取り囲む友達たちもどう声をかけたらいいのか分からないようで、戸惑いがちに慰めることしか出来ていなかった。もちろん本人達ですら戸惑っているのに、同じ教室にいる生徒たちが戸惑わないわけがない。
彼女を遠巻き眺めひそひそと話す声を聞けば、どうやら彼女は志望校の推薦に落ちたようだった。何か事情があったのかは知らないがどうしてもこの学校に入りたかったらしく、まだチャンスはあるだろうに惨めにぐずぐず言っている。本格に受験シーズンを迎える前のこの時期だ、あからさまに態度には出さずとも皆が皆「明日は我が身」と怯えている。
なんだか、無性にいらいらした。


(ゼイタク、だ)













屋上へ続く階段を上る。何となく一人になりたくて、友人を適当に言いくるめて教室を出た。階段を上り始めてから屋上は寒くて風が強いということを思い出したが、マフラーを持って教室を出るのもおかしいし、わざわざ人の居ない場所を探すのもめんどくさい。まあ、いいか。どうせすぐ教室に戻るだろうし。そう諦めをつけて扉を開いた。


「おや……生徒は立入禁止だよ、ヤシロ」

「比企、先生」


扉を開いてまず目に入ったのは、フェンスにもたれて煙草を吸っている比企の姿だった。
比企の言う通り確かに屋上は立入禁止だ。だが別に鍵がかかっているわけでもなく、サボるわけでなければ生徒が入り浸るのも黙認されている。何故かと言えば、教師達にも煙草を吸う場所が必要だからだ。


「先生だって、まだ放課後じゃないのに煙草吸っていいの」

「ヤシロも吸うかい?」

「……吸わないよ」

「残念」


煙草仲間が増えるかと思ったんだけど。そういって喉の奥で笑う比企は教師という立場を理解しているのだろうか。


「先生はいいね、のーてんきで」

「ううん、なんだか侮辱されてる気がするけどねえ……そういうヤシロは何か悩み事かな?」

「べつに」

「このおにーさんに言ってご覧よ」


お兄さんって歳でもなかろうに。それでも明るく軽口を叩くような口調に、自然と自分の口も開いた。


「みんな受験辛いのは分かるけど、なんか、気に食わない」

「うん」

「落ちるのは自分の努力が足りなかったって事なのに、まだチャンスはあるのに、泣いて同情求めて」

「うん」

「それでなにになるっていうの。自分達以上にままならない人達がるって知らない」

「そうだね」

「泣いてなにになるっていうの」

「ヤシロは強いね」

「強かったら、ここに居ないよ」


胸元まである高いフェンスに腕を置き、顔を埋めた。なんにも見たくない。聞きたくない。感じたくない。


「ヤシロは強いよ。でも、もし弱い女の子になりたくなったら、僕の所へおいで」


頭に暖かい感触。そして撫でられたのと同時に香る煙草の匂い。煙草の匂いって、こんなに落ち着くものだっただろうか。




(屋上にて)
- - - - - - - - - -
比企/ハイガクラ

もっとこう…えぐい比企になる予定でした。というかえぐくない比企なんてただの爽やかお兄さんじゃないか。
一応受験生応援シリーズという名目のこの不可解ルーム、約一年越しの第五話でした。前四話分も日記のログにありますが、ちゃんと夢ページを作るかどうか思案中。もともと自己満のシリーズだしなあ
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自己紹介:
絵描きかつ夢書き。
さんほらに目覚めてから何かが変わった。
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